OC Report オーガニック クロッシング リポート
OC Project
「ひとりひとりがつながる支援」 福島レポート
「ここに、暮らす」
なにも変わらない日常と、
なにも変わらない風景。
抜けるように青い空は、いつもと同じように青く、
山々を覆う木々の葉は、いつもと同じように緑深く、
見渡す限り金色の田んぼには、
いつもと同じように収穫を待つ稲穂が揺れる。
歩く人がまばらな繁華街に、
書店の店頭に山積みになった放射能関連書籍に、
積算線量を測定するガラスバッチを身に着けた子どもたちに、
多少の違和感を感じる場面もある。
だけど目の前に広がっているのは、
なにも変わらないはずの日常と、
なにも変わらないはずの風景。
知人が持っていた放射線量測定器を見せてもらう。
木々や草むらに近づけると大きく揺れる数字に
そこにいた全員が一瞬息を呑んだ・・・。
見えないものが見えるようになった瞬間。
さっきまでなにげなく見ていた風景が、
たった数秒前とまったく違って見える。
抜けるように青い空には、いまも放射性物質の放出が続き、
山々を覆う木々の葉は、除染すらしようがなく、
見渡す限り金色の田で収穫を待つ稲穂は、
出荷できるかどうかすらわからない。
変わってほしくない日常と、
変わってほしくない風景。
だけど、すべては変わってしまった。
何気ない日々の暮らしは一瞬にして奪われた。
なんの罪もない人や子どもたちが日々被爆し続け、
多くの人がさまざまな不安とストレスのなかで
暮らすことを強いられているという事実。
その事実を「何ミリシーベルトまで安全」という
ことにすりかえることはできない。
夢なら覚めてほしいと願っても、
もう過去には戻れない。
昼から訪れた原発から25キロに位置する町。
チェルノブイリを捉えたフォトジャーナリストの講演会に
町の人たちが続々と集まってくる。
溢れる人が通路や階段にまで座り、映写室にまで人が入った。
そしてはじまった講演会の内容に、
息を呑む人、静かにうつむく人、握ったこぶしを振るわせる人。
「ここで子どもを育てることができるんですか?」
「育ててもいいんですか?」
「誰か教えてほしい・・・」
2歳の子を持つお母さんが震える声で訴えた。
「自分の育てたトマトを、子どもに食べさせることができない」
「このまま野菜を育て続けていいのか?わからない」
「ここに暮らし、農業を続けることができるのか・・・」
農家さんはまるで自分に言い聞かせているようだった。
「わたしたちはここに暮らすしかない」
「ここで生きていくしかない」
「だから、どうか私たちがここにいることを知ってほしい・・・」
涙を浮かべながら話すお母さんがいた。
すべての日程を終え、大阪へ帰ってきた。
共に行動したメンバーと別れ、
床に少し横になって目が覚めると、
いつもと変わらないような日常、
いつもと変わらないように見える風景。
だけど世界は、確実に変わってしまっている。
福島を訪れ、
答えがどこにあるのかすらわからない途方もない現実を、
知ることになった3日間だった。
にわかには信じられないことだけど、
受け止めるしか選択肢はない。
すべての始まりは、
より多くの人が自分のこととしてこの問題を共有し、
受け止めることなのではないかと思った。
いまもそこに暮らす人たちがいるということを。